美容外科に限らず一般保険診療でも、『患者様の訴えを聞く』事が大切であるのは言うまでもありません。この事を考えるときに自分に対しての啓蒙と反省の意味で、いつも思い出すことがあります。それは決して大きな事件ではなかったのですが、私にとっては忘れられない出来事でした。
今から6、7年前の事です。
ある患者様が数年前に他院で受けた二重手術(埋没法)の糸を取って欲しいと来院されました。外見上は問題が無いのですが、糸によるツッパリ感(自分だけが解る感覚的なモノ)が気になり、それを解消したい事が抜糸の理由でした。リッツに来られる前に、施術を受けたクリニックで一度抜糸をしたのですが、『まだ糸が残っている気がするので診てもらいたい』との事でした。
埋没法による二重手術の場合、手術よりも抜糸の方が難しいケースが多いのです。つまり、時間経過とともに糸は瞼の組織に深く迷入して、糸の色素も脱色され、元は青色(または黒色)の糸が釣り糸のように透明になってしまう場合があります。
今回のケースも手術による傷や盛り上がりも無く、斜め下を見たときに瞼の中央部に僅かに引き込まれる部分があるだけで、皮膚表面からは糸は全く確認できない御状態でした。
『もしかしたら、糸は深い位置に埋まってしまって取れないかもしれません。また既に取れている可能性も有り、部分的に癒着しているだけかもしれません。そうしたら抜糸を試みても症状が改善されない可能性が大きいですよ』と説明いたしましたが、
『その部分のツッパリ感から解放されたいので、ダメだったとしても取って欲しい』との強い御希望があったため、御本人から指摘して頂いた部分(僅かに凹む部分)の抜糸を試みました。
通常の場合、糸の結び玉さえ見つかれば、抜糸は1~2分で終了するのですが、5分、10分経過しても糸は全く確認できません。
埋没糸の抜糸で注意する点として、
(1)傷の大きさを最小限にする、(2)出血させない、(3)乱暴な操作による周囲組織の癒着を回避する事などがあります。
組織から出血させないように丁寧な操作を行ない、祈るような気持ちで少し(零コンマ何ミリか)ずつ深い層を探索していくと、約20分後に糸の結び玉らしき硬めの組織を発見しました。
先の細いピンセットでそれを牽引してみると、患者様から『あっ、今のところがツッパっているところです』との御指摘を頂きました。
ピンセットを離してしまうと糸はまた深く迷入してしまうので、つかんでいる部分がはずれないように慎重に切除すると、そこには確かに埋没法の糸が有りました。
その瞬間に『先生っ!楽になりました。ツッパリ感が無くなって、まばたきをしても全然感じが違います』と、長年の悩みが消えた事をお話しされました。
なにげない事では有りますが、自分にとってこの事実は衝撃的でした。
抜糸をする前は『数年前の手術だから、瞼の奥深くに埋まってしまっておそらく糸は取れないだろう。いや、もうすでに前のクリニックで糸は取れているのだが、単に癒着しているだけで御本人が気にしすぎなのではないだろうか』という先入観で手術をしてしまった事を猛省し、患者様の訴えには真摯な姿勢で話をお聞きし、誠意をもって対応させて頂くことの大切さをあらためて感じました。
その患者様は『ありがとうございました』と笑顔でお帰りになりましたが、本当にありがとうございましたと申し上げたいのは私の方でした。
固定観念や先入観にとらわれずに素直な気持ちで正確に物事を判断するという、医師にとって大切な事を教えて頂いた事に感謝するとともに、この気持ちを忘れる事がないようにこれからも美容外科診療を続けていきたいと思います。


コメント
以前お世話になりました\^^/ミュウミュウです。
先生は私の意見も本当に真摯になってきいてくれて感謝しています。
これかれも時々伺いますのでまたお願いしますぅ。
Posted by: ミュウミュウ | 2008年5月26日 01:53
ミュウミュウ様。
当院へご来院頂きまして有り難うございました。
お聞きになりたい事、疑問に思った事、お悩みになっている事がございましたら、いつでも、またカウンセリングにお越し下さい。
お待ちしております。
Posted by: 院長 阿部聖孝
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2008年6月 3日 16:48